バリントグループワーク

 

 

 バリントグループワークとは、患者中心医療を行うための「バリント方式の医療面接法」を習得し、「治療的自我」(therapeutic self)を高めるための教育方法である。

 

 バリント方式の医療面接法とは患者固有の身体・心理・社会・実存的関係を、患者とともに相互主体的に理解できるようにすることである。また、そうしたことができるような、治療者―患者関係を構築することである。

 

 医療の現場においては治療者と患者の関係が治療効果に大きく影響する。すなわち、現場の医療では、治療者の態度(affective domain)が重要であり、そこに態度教育が必要になる。態度とは、治療者の患者に向かう姿勢であり、コミュニケーション能力のことである。

 

 これは医師だけに限らず、治療に携わる医療職全ての者において必要な要件である。そのために医療職は絶えず患者から学び、治療者として成長し続けなくてはいけない。それぞれの職種の特徴を活かしながら、患者と全人的交流をおこなう努力を重ねなくてはならない。

 

 患者はその人固有の生きざまをひきずって、病になる。その結果、診察室を訪れる。患者固有の問題解決のためには、患者と視線を同じにし、患者の生きざまを知るようにしなくてはならない。患者と全人的な交流を行うことにより、患者の心にチューニングインし、良好な関係を構築することができる。

 

 バリントグループワークでは多職種が一堂に会して1つの症例(治療困難な症例)を検討するグル−プワークである。自らの職場でない場所で行うことにも意義がある。自らの職場では「自分の手の内を明かしたくない」「うまくいかなかった症例の提示は治療者のネガティブな評価につながる」など閉鎖的になりやすい。

 

 しかし、失敗から学ばなければ成長には繋がらない。本症例報告においても、症例4のような失敗事例にも目を向けて頂きたい。失敗を開示して学び、さらに成長する。これがバリントグループワークにおける効果の一つであるともいえる。

                      

   

                    Presenter:永田勝太郎(公益財団法人国際全人医療研究所) 

 

 


 【2017年度 報告】

 第1回   バリントグループワークの意義  

 第2回   腹痛を訴える女性       

 第3回   独身の息子についての相談  

 第4回   原因不明のめまいに苦しむ女性         

 第5回      患者との距離の取り方を誤り、関係がこじれた事例

 第6回      何年掛かっても何の変化も見つけられない女性  

 第7回      身体因性偽神経症

 



 

 

 

7回 バリントグループワーク 

  

 

〈症例6〉身体因性偽神経症

 

20代 女性

  

主訴 気分が落ち込む 自傷行為(リストカット) 手の震え 低血圧

  

現病歴 低血圧 低血糖

  

既往歴: 10代から自傷行為(リストカット)があるが、頻度は少ない。

 

家族歴: 父 母 兄弟と4人暮らし。家庭的な問題は見当たらない。

  

プロフィール:大学生。体調を崩し学校を休学。

 

問題点を中心としたPEG

 

現在の問題

潜在した問題

現在の資源

潜在した資源

身体

低血圧

低血糖

疲れやすい

 

 

心理

気分の落ち込み

人間関係が上手くいかない

 

 

社会

学校を続けようかやめようか迷っている

恋人との関係

温かい家庭環境

 

実存

 

 

 

絵を描くことが好きである

 

経過:①前医(某大学病院精神科)により、抗てんかん薬や抗精神病薬、SNRIなどが処方されていたが、効果は感じられず当院を受診した。②検査と診察により、重症な低血圧と低血糖であることが診断された。③学校の継続、人間関係の悩みなどがあり、カウンセリングを受ける。④カウンセリングの中で恋人との距離感が上手く取れないことが、学校を休学した理由の一つであったことが分かった。⑤身体面では生活を見直し、管理栄養士による個別栄養指導を受けた。心理面では、認知的アプローチで認知の修正を行った。⑥学校に復学することができた。⑦復学後、人間関係の悩みで再度カウンセリングを受けたが、再び認知の修正により、前向きになっていった。

 

 

考察: 前医は多種類の向精神薬を処方しており、患者をどのような疾患だと診断し、処方したのか疑問である。アメリカ精神医学会のDSMの診断基準に準じれば、境界型人格障害ともとれるような所も見受けられるが、心理面の基準だけで診断してはならないと考える。その裏にある、低血圧や低血糖が見逃してはいけない。

 

 

 

*身体因性偽神経症とはヴィクトール・フランクルが提唱した症候群である。身体的要因が心理的症状に隠れて見えないことである。機能的身体症候群(FSS)においては、多彩な身体症状に加え、心理的(精神的)症状も多くみられ、精神疾患と誤診される事が多い。

 

 

 

 

 

6回 バリントグループワーク

 

 

〈症例5〉何年掛かっても何の変化見つけられない女性

  

70代 女性

  

主訴:痛み 胃の不快感

 

現病歴 体の全般的な不調 疼痛 不眠 やせ型の体型

  

既往歴: 特になし

  

家族歴: 夫と二人暮らし。二人の息子は別居。息子の一人は精神疾患にて施設に入居している。

  

プロフィール:地方に住んでおり、適切な医療を受けられない。

  

問題点を中心としたPEG 

 

現在の問題

潜在した問題

現在の資源

潜在した資源

身体

杖歩行。十分に歩けない

体力がない

痩せている

 

 

心理

抑うつ傾向

 

東京の病院を受診したい

 

社会

老老世帯

地域の医師不足

息子が非協力的

 

近所との関係良好

実存

 

 

絶望や投げやりになっていない

 

  

経過:①カウンセラーは患者から12年間電話相談を受けている。相談の内容はほとんど変わらず、地域に理解ある医師がいないことと、日常の愚痴である。②カウンセラーの励ましと、室内でできる運動指導により、杖歩行で5分以下しか歩けなかった状態が15分間歩けるまでになった。③しかし、東京の医療機関を受けるまでの体力には至っておらず、決心もできない。④息子の一人は東京在住で電話では話せるが、医療機関受診には協力的ではない。

 

 

考察: 地域の過疎化により、十分な医療が受けられない。また、そのことが基本的な健康教育の不足にも繋がっているのではないか。家族のコミュニケーション不足の問題もあるのではないか。地域や社会福祉の活用が十分にできていないと考えられる。

 

 

 

*サルコペニア(筋枯病)を頭に入れて対応をしなければならない。

現在70歳以上は13~24%、80歳以上は50%の有病率になっている。筋肉量の低下は老化や病気の原因になる。

 

*基本的な「食事」「睡眠」「排泄」の確認も大切である。

 

 

 

 

 

 

 5回 バリントグループワーク

  

 

〈症例4〉患者との距離の取り方を誤り、関係がこじれた事例

  

50 女性

 

主訴:自分の要求を通したい

  

現病歴 事故による兎眼症 半身不随

  

既往歴: 特になし

 

家族歴: 夫と二人暮らし。一人娘と別居。介護が必要な親がいる(別居)。

  

生活歴: 車椅子であるが、生活は自立している。

 

 問題点を中心としたPEG

 

現在の問題

潜在した問題

現在の資源

潜在した資源

身体

兎眼症、半身不随

自己管理の悪さ

車椅子だが、自立できている

 

心理

依存心が強い

 

 

 

社会

要求を通したい

 

医療チームの支え

 

実存

 

 

 

 

 

 経過:①患者は事故の為、労災保険にて医療費負担はなし。兎眼症の手術の為、手術・入院の計画が立てられたが、褥瘡があることが分かる。入院期間を延長し、褥瘡治療も行うことになった。医療チームは親身に治療を行い、患者との関係は良好であった。②術後2年経ち、今度は下肢腫瘍で再入院をする。入院、加療にて腫瘍はなくなったものの、退院後の自己管理が悪く腫瘍が再形成した。③褥瘡・下肢腫瘍・足趾壊死で通院加療中から、治療者に対して、必要以上の抗不安薬、ガーゼなどの処置物品を求めるようになった。④一方的な電話をかけてきたり、ガーゼを投げつけたり、行動がエスカレートしていった。

 

 

考察:最初の入院時から医療チームとの関係が良好であったが、依存度が高くなり、自分は特別で無理を言っても通ると思わせてしまったのではないか。家族の心理的な支えが十分に無かったのではないか。労災保険にて自己負担額が無かったため、薬や物品の要求がエスカレートしていった面もあるのではないか。

 

*治療者―患者関係は3つしかない。

 ①パターナリズム(上→下)

 ②相互主体的関係(対等)

 ③迎合(下→上)

 

迎合とおもてなしは違う。迎合は依存されやすい。治療において初期は依存させても、徐々に患者を自立へ向かわせ、相互主体的関係を確立していくべきである。

 

 

 

 

4回 バリントグループワーク

 

 

〈症例3〉原因不明のめまいに苦しむ女性

  

70代 女性

 

主訴:一日中起こるめまい 同居の長男が心配

 

現病歴:めまい(揺れている感じがする)疲労感

 

既往歴:特になし

 

家族歴:長男(40代)と二人暮らし。次男は結婚し独立。夫は死去(脳血栓)

  

問題点を中心としたPEG

 

現在の問題

潜在した問題

現在の資源

潜在した資源

身体

めまい

体力の低下

家事はできる

 

心理

めまいによる体調の不安・独身の長男の将来に対する不安

 

 

 

社会

 

 

長男・次男夫婦に支えられている

金銭的余裕がある

実存

生きがいがない

 

 

 

 

経過:①患者は半年くらい前から、めまいがしている。患者は未婚の長男を心配するようになってからと述べている。②耳鼻科(2か所)、整形外科、脳神経外科、心療内科など様々な病院を受診したが、診断がつかなかった。鍼にも行ったが効果がなし。③長男とは以前は会話が無かったが、患者がめまいになってから優しく接してくれるようになった。④長男との関係が良好になっても、めまいは改善しない。カウンセラーに毎回、改善しない事を訴えてくる。

 

 

考察:めまいには頭がクラクラするdizziness(ディジネス)と回転性めまいなどのvertigo(バーティゴ)がある。dizzinessの場合、血圧が関与し、耳鼻科などで分からないこともある。長男が面倒をみてくれるようになり、運動不足になっていることも一因としてあるのではないか。地域の交流などの活動を促してみてはどうか。

 

 

 

 

 

 

 

3回 バリントグループワーク

 

 

〈症例2〉独身の息子についての相談

 

70代 女性

 

主訴:自分の思う通りに息子にしてもらいたい

 

現病歴:顔面神経痛 疼痛(足)下痢

 

既往歴:子宮癌術後 肺、胆石、心臓、腸の癒着手術

 

家族歴:一人暮らし。息子1人と別居。夫は死去。長く姑に仕えていた。

 

 問題点を中心としたPEG

 

現在の問題

潜在した問題

現在の資源

潜在した資源

身体

常に体調が悪いと訴える

 

 

 

心理

将来への不安

息子への怒り

思い込みが強い

 

 

社会

他者に相談をするが、返って不安になっている

夫の死去

相談できる人がいる

金銭的余裕がある

実存

 

 

社会活動への参加

 

 

 経過:①患者は30代後半の息子が未婚であることを心配している。「子どもは親の言う事を聞くべき」という考えをもっており、自分の助言どおりの人と結婚をし、助言どおりの人生を送って欲しいと願っている。しかし息子は家に寄り付かず、患者はカウンセラーに相談をしてきた。②カウンセラーは患者が子離れをし、生きがいを見つけることを目標とした。③息子が突然、家に来るようになった。患者は息子と和解した。息子は結婚したい人が出来たので紹介したいという事であった。④最初患者は息子の結婚相手に賛成をしていたが、周囲に相談してから「反対」と言うようになった。自分の思い通りの結婚をして欲しいと再度口にするようになった。

 

 

考察:患者は成人した子をいつまでの自分の思い通りにしようとする未熟な自我が見受けられる。また患者は他者の意見に流されやすく、自己決定ができていない。姑に長く仕えていたこともあるのではないか。

 

 

 

 

 2回 バリントグループワーク

 

 

〈症例1〉腹痛を訴える女性

  

80 女性

 

主訴7年前より続く腹痛・胃痛

 

現病歴:高血圧兼起立性低血圧 咽喉頭異常感症 大動脈弁閉鎖不全症(軽度)

 

    腹痛 腹部膨満 便秘 顕微鏡的血尿 不眠

 

既往歴:中耳炎(手術実施)

 

家族歴:一人暮らし。夫は大腸癌にて死去。子ども2人。共に結婚し独立。孫が1人。

    子どもや孫との関係は良好と言うが、クリニックについてきたことはない。

 

プロフィール:夫の会社の経営に携わっていた。

  

問題点を中心としたPEG

 

現在の問題

潜在した問題

現在の資源

潜在した資源

身体

腹痛 胃痛

 

お灸の効果があった

 

心理

0100か思考

過去と現在を比較して考えている

 

 

社会

一人暮らし

社会的役割がない

 

2人の子どもが近くに住んでいる

孫がいる

仕事にやりがいを感じていた

実存

生きがいがない

 

 

 

 

経過:①ヘッドアップティルト試験において血行動態に悪い所見は見られなかった。②血糖値も正常範囲であった。③血液検査、胸部・腹部レントゲン、頭部MRI、心エコーの検査においても器質的疾患は見当たらなかった。④胃・腸管の内視鏡検査は他の大学病院にて受けている。その他の消化器的検査は拒否。⑤カウンセリングでは腹痛にとらわれており、お腹が痛いから私は全くダメだという思考。⑥患者は心理アセスメントが面倒だと言い、カウンセリングに興味を示さなかった。⑦その後、お灸の治験に参加。「気持ちが良い」とお灸治療は積極的に行うようになる。⑧CHCP健康調査票において身体・心理・社会面は改善がみられたが、実存面(生きがい)だけ変化が見られなかった。

 

 

考察:会社代表であった頃の自分から抜けきっていないのではないか。なんでもランク付けする傾向がある。病院もランク付けしている。Pain Prone Personality。灸は患者にとって侵襲的方法とも考えられ、理にかなっていたのではないか。現在、食べるための心配がない裕福な高齢者と、生活保護などを受け困窮している高齢者と極化が見られる。

 

その中で高齢者へのアプローチの仕方は幅を広げる必要があるのではないか。                        

 

 

 

Pain Prone Personalityの患者について

 

本症例はPain prone personalityが疑われる事例である。

 

Pain prone personality(痛がりやさん)には,以下のような特徴がある。

 

・慢性疼痛痛みを強調する依存性が強い・未熟な性格特別扱いを要求する外科的・侵襲的方法を好む(身体接触を好む)自己・周囲を理想化する一見、心理的問題はない治療者を誘う など

 

 

 

 

 第1回 バリントグループワーク

 

 

 

バリントグループワークの意義

 

Presenter:永田勝太郎(公益財団法人国際全人医療研究所)

 

 

 

 【2016年度報告】


 第1回   バリントグループワークの意義  

 第2回   抜毛僻を有した主婦         

 第3回   将来不安の強い線維筋痛症   

 第4回   自我の未熟な女性         

 第5回   開催なし

 第6回   開催なし

 第7回   生への執着の強い強迫性障害

 第8回   自己愛型人格障害を有した線維筋痛症

 第9回   眠れないアスペルガー症候群  

 第10回 低血圧・低血糖が潜在した線維筋痛症患者(身体因性偽神経症)

 第11回 意欲が湧かない男性 


 

 2回 バリントグループワーク

 

〈症例1〉抜毛癖を有した主婦

 

30代、女性。

主訴:倦怠感、易疲労感。

現病歴:抜毛癖。鍼灸院を受診し、鍼灸師から当院を紹介された。

既往歴:パニック障害、不安症。

家族歴:母、兄弟、子ども1人と同居。夫とは別居中。

 

問題点を中心としたPEG

 

現在の問題

潜在した問題

現在の資源

潜在した資源

身体

抜毛癖

 

 

 

心理

夫に対して不満

母に対しての不信感

 

 

社会

 

 

子どもの存在

 

実存

 

 

 

 

 

経過:①抜毛癖は10代から。②鍼灸師は傾聴と診察、ヘッドアップティルト試験を行った。本試験では立位後、収縮期血圧、拡張期血圧すべての数値が5~10mmmHg上昇した。③患者は鍼治療が未経験で不安もあったため、鍼灸師は丁寧に説明を行い、咬筋に対して低周波鍼通電療法と頚肩部、肩甲間部に灸頭鍼を施行。④5カ月後には別の心療内科から処方されたSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の服用を中止することができた。

 

考察:ヘッドアップティルト試験の結果から、患者は生活者として(立位)の状態になると緊張状態が高まり、交感神経優位の生き様であることがうかがえた。また10代より抜毛癖があったことから、現在の夫への感情だけでなく、母親に対する感情をこれまで抑圧してきたと考えられた。母親、夫ともに、自己愛型人格障害を有していた。精神分析的なアプローチは、有効ではあるが、治療者は深く掘り下げ、そのパンドラの箱を開けた後、その先の対処法に責任を持たねばならない。この症例の場合、「発散」が功を奏すのではないかと考えられ、声を出す、代替の発散行為など、バイオエナジェティック療法的なアプローチが有効ではないかと考えられたため、詩吟(患者会)を勧めたところ参加するようになった。

 

 

 

 3回 バリントグループワーク

 

〈症例2将来不安の強い線維筋痛症

 

50代、女性。

主訴:不安。

現病歴:線維筋痛症。

既往歴:急性膵炎、PTSD。 

家族歴:両親(死去)。兄弟一人。離婚し、現在一人暮らし。

 

問題点を中心としたPEG

 

現在の問題

潜在した問題

現在の資源

潜在した資源

身体

痛み 不眠 

吐き気

食が細い、お腹が空かない

 

 

心理

不安 

 

 

 

社会

電車や混雑が苦手

 

支援者・友人が多い

 

実存

 

 

困っている人を助けたい

 

 

経過:①患者は過去の事や現在の生活や痛み、将来のことなど「不安」が沢山あり、頭の中の整理がつかない状態であったため、カウンセラーは話を聴き、整理することから始めた。②整理していくと次第に一番不安なことは将来一人になることだと気がつく。③医師、カウンセラーが自分を見放さないという安心感が出てくる。④治療にてブロック注射で痛みのない状態を体験した時と、カウンセリングにて「過去の自分を否定しなくて良い」と気がついた体験が重なった時、行動変容の原動力になった。⑤自ら食事などの工夫をし始め、将来は自分のように困っている人を助けたいと思うようになった。積極的に行動するようになった。

 

考察:医療の中でカウンセリングを行うタイミングが良かったのではないか。身体の調子が整って、カウンセリングを行う良いタイミングであった。チーム医療の中では情報を共有し、チームで行うことが大切である。

 

 

 

 4回 バリントグループワーク

 

〈症例3自我の未熟な女性

 

30代、女性。

主訴:首の痛み、誰とも会いたくない。

現病歴:頸椎椎間板ヘルニア。

既往歴:摂食障害。

家族歴:両親と3人暮らし、未婚。

 

問題点を中心としたPEG

 

現在の問題

潜在した問題

現在の資源

潜在した資源

身体

手術のリスク

過去に摂食障害

 

 

心理

 

 

外に出たい気持ち

 

社会

引きこもり

 

 

 

実存

 

 

 

 

 

経過:①患者の頸椎椎間板ヘルニアは手術が難しい状態であった。②過去の摂食障害

もあり、体型は太っているわけではないのに、患者は太ってしまい誰とも会えないと引きこもっている。げっぷをしてしまう。③最初はカウンセリングにおいても、無口で消極的であった。④カウンセラーはカウンセリングの導入に傾聴とオーラソーマを用いた。きれいなボトルを前に、患者は興味を示した。⑤患者が選択したボトルの中に「外へ出ていきたい」ことを示すボトルがあった。カウンセラーはボトルの説明をし、次第に患者は心を開くようになった。⑥患者が今出来る事を一緒に考え、一日1回の外出の目標も立てられるようになった。

 

考察:カウンセラーが用いたオーラソーマが、カウンセリング導入時のよいコミュニケーションのツールになり、またカウンセラーがしっかり受容的に傾聴したことにより、患者は心を開いたのではないか。過去の拒食症でやせた時の心臓機能のまま、現在の体重を維持するので、患者は血液循環が悪くなっていたのではないか。げっぷは心的に幼稚な適応形態でもあり、カウンセラーは両親に代わって、母親的な受容の中で再療育療法を行うことに成功したとも言える。

 

 

 

 7回 バリントグループワーク

 

〈症例4〉生への執着の強い強迫性障害

 

40代、男性。

主訴:生きがいがない。

現病歴:強迫性障害、睡眠時無呼吸症候群。

既往歴:特になし。

家族歴:父、母、兄弟一人。現在は父母と同居。

 

問題点を中心としたPEG

 

現在の問題

潜在した問題

現在の資源

潜在した資源

身体

パロキセチン長期服用

睡眠時無呼吸症候群

 

 

心理

集中力低下

気分の波(興奮状態)

 

減薬を希望

社会

強迫行為

 

 

趣味を持つ

実存

 

 

将来の夢

 

 

経過①患者は10代で強迫観念・強迫行為を自覚し、精神科に通院している。パロキセチンを長期服用。睡眠時無呼吸症候群の診断は受けたが治療はしていない。②仕事は続けているが、強迫行為の確認作業が多くなり、またそれを分からないように隠し続けているので疲れると訴える。③カウンセラーは仕事での困難なことや、趣味などから将来のやりたいことなどを聴き出した。患者は自己実現に向けて努力はしたいものの、なかなか行動に移せないでいた。

 

考察:「生きることへの不満足感」は言い換えれば「生への欲望の強い人」であり、そういった面をフィードバックしていくことも有効であったのではないか。また、興奮状態はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)の服用において、躁に転換した事例が多くあり、注意深く診ていく必要がある。病態仮説が不十分だったのではないか。患者の訴えた集中力の低下、疲れは強迫性障害よりもむしろ睡眠時無呼吸症候群による症状であり、そちらの治療を進めることにより、自己実現へ向けた心身の状態を良くすることに繋がるのではないか。患者の10代からの強迫行為、苦痛という強い訴えの裏で、カウンセラーはしっかり病態を把握していかなければならない。

 

本症例は心理職が身体状況の認識が不十分であった事例である。

最近の臨床心理において心理職は、精神医学の知識を中心に学ぶ傾向にあるが、身体的知識も十分に持つ必要性もある。心を知るには、身体を知らなければならない。

 

 

 

 第8回 バリントグループワーク

 

〈症例5〉自己愛型人格障害を有した線維筋痛症

 

50代、女性。

主訴:痛み。

現病歴:線維筋痛症、歩行不可。

既往歴:特になし。

家族歴:両親離婚後、共に死去。夫と離婚。子ども1人。現在一人暮らし。

 

問題点を中心としたPEG

 

現在の問題

潜在した問題

現在の資源

潜在した資源

身体

ADL低下

 

 

 

心理

攻撃性 怒り

過去への執着

 

デザイン画

社会

ヘルパーと絶えず喧嘩

離婚 金銭問題

 

 

実存

理解者不在

 

 

 

 

経過:①カウンセラーは電話相談にて対応するが、強引に見舞いを強要するなど、特別扱いを要求することが見られた。②カウンセラーは患者会などに参加するよう促し、患者は2回参加した。その際、周囲には別人のように良い人として接していた。③カウンセラーは患者会での患者の姿に、服のセンスが良いことに気がついた。④患者はデザインの専門学校出身であり、デザイナーになりたかったことを聞いていたカウンセラーは、患者のデザインした画を冊子に掲載した。患者は大変喜び、外にも自ら投稿をした。⑤④を期に変化がみられた。カウンセラーが、笑顔で接すると相手も悪い気はしない事を患者に度々伝えていくと、ある日「ヘルパーさんに笑顔で話しかけたら、笑顔で答えてくれた」と嬉しそうに話した。⑥電話の回数も減り、相談でも落ち着きがみられるようになった。

 

考察:「痛み」より「怒り」が大きく、過去誰にもぶつけられなかった怒りが大きくなっていったのではないか。しかし「攻撃するパワー」はある。カウンセラーは粘り強く話を聴き、そのパワーを良い方向へ導いた。患者は他者からの評価を求めていた。カウンセラーが評価を与えたとき、変化がみられたのではないか。近年日本やヨーロッパで、こういった患者が増えている。

 

Pain Prone Personalityの患者について

本症例はPain prone personalityが疑われる事例である。

Pain prone personality(痛がりやさん)には、以下のような特徴がある。

・慢性疼痛痛みを強調する依存性が強い・未熟な性格特別扱いを要求する外科的・侵襲的方法を好む(身体接触を好む)自己・周囲を理想化する一見、心理的問題はない治療者を誘う など

 

 

 

 

 

 

 9回 バリントグループワーク

 

〈症例6〉眠れないアスペルガー症候群

 

60代、男性。

主訴:不眠、見捨てられ不安。

現病歴:アスペルガー症候群、妄想、幻聴。

既往歴:学生時代より不眠症。神経科通院。うつ病。

家族歴:母、妻、子ども3人。妻とは別居。一人暮らし。

 

問題点を中心としたPEG

 

現在の問題

潜在した問題

現在の資源

潜在した資源

身体

不眠

 

 

 

心理

 

同性愛を隠す

 

 

社会

仕事の人間関係

 

家族 

財産がある

実存

責任性の欠如

 

 

 

 

経過:①カウンセラーは電話相談にて対応。受容的に傾聴を行う。②相談を受けていくうち、患者は同性愛者であり、結婚している妻への罪悪感があることがわかった。③人間関係が構築されてくると、人から嫌われる、見捨てられる不安が現れてきて関係を自ら断ってしまう傾向が見られた。④妻子とは別居し、別宅を持ち、職場を転々としていた。⑤カウンセラーとの信頼関係が構築しつつある中、「しっくりこない」と突然電話カウンセリングを終了した。

 

考察:カウンセラーが傾聴中心に進めたのは良かったが、カウンセリングのゴールをしっかり定めていくことも必要だったのではないか。実存、生きる意味は自由性と責任性から成っている。患者は自由であるが、責任存在はどこにあるのか。妻子がいるという自覚や責任性を持ってもらうため、時にはカウンセラーは父親的な役割を担うことも必要である。

 

 第10回 バリントグループワーク

 

〈症例7〉低血圧・低血糖が潜在した線維筋痛症患者(身体因性偽神経症)

 

20代 女性

主訴:腰痛 四肢末梢痛 不眠 喉の渇き 光が眩しい 幻聴

現病歴:線維筋痛症のため、ドクタ−ショッピング

既往歴:特記事項なし

家族歴:母・兄弟と同居 両親は離婚.

 

問題点を中心としたPEG

 

現在の問題

潜在した問題

現在の資源

潜在した資源

身体

低血圧・低血糖

体調不良

失体感症

点滴・投薬の効果があった

DHEA-Sが高い

心理

頑張りすぎる

過剰適応

 

意欲がある

性格が明るい

社会

仕事が困難

 

家族の理解

職業能力が高い

実存

 

 

現医師との出会い

信仰

 

経過:①以前に別の病院にて、うつ病・適応障害・月経不順と診断され、抗不安薬や抗てんかん薬などを服用していたが効果がなく当院を受診した。②ヘッドアップティルト試験を行った。本試験では臥位にて収縮期血圧86mmHg,拡張期血圧63mmHg、立位後も収縮期血圧86mmHg、拡張期血圧67mmHgなど、重度の低血圧を示した。③反応性低血糖があることも分かった。④心臓の機能を上げるための薬と点滴、低血糖の治療のため特殊な乳酸菌を服用し、治療を続けた。⑤患者の低血圧・低血糖は徐々に改善し、以前誤診を受けた際の体調の不良は見られなくなった.⑥新しい仕事に就き、もともと高かった事務処理能力を発揮している。

 

考察:反応性低血糖は脳の機能低下症状が現れることがあるため、うつ病や統合失調症に間違えられるケースがよくある。以前の病院にて誤った薬(抗精神病薬等)を処方されたことにより、症状がさらに悪化したのではないかと、考えられた。

 これはまさにビクトール・フランクル博士の述べた「身体因性偽神経症」である。

学童期・思春期の子どもが、抑うつ状態などで心療内科などを受診することが見受けられる。この中にも低血糖のケースもあるのではないか。子どもの頃からの栄養管理は大切であろう。

 11回 バリントグループワーク

 

〈症例8〉意欲が湧かない男性

 

60代 男性

主訴:意欲が湧かない 何もする気が起きない

現病歴:パーキンソン病(疑) 睡眠時無呼吸症候群 肥満

既往歴:特になし

家族歴:本人・妻・三女と三人暮らし(長女・次女は別居)妻とは再婚。

 

問題点を中心としたPEG

 

現在の問題

潜在した問題

現在の資源

潜在した資源

身体

右腕・手のしびれ 震え ふらつき

 

症状はあるがよく動く・体力がある

 

心理

 

 

責任感がある

 

社会

後継者がいない

子どもと不仲

仕事では努力をして成功している

 

実存

欲低下

後継者がいない。

長男であることへの誇り

 

 

背景:①患者は製材業(家業)家庭の長男として厳格に育てられ、家業を継いだ。②患者はカウンセラーの親族であり、カウンセラーは患者を心配している。③カウンセラーが患者と直接話す機会は年に2回程度であり、電話では3ヵ月に1度くらいである。④弱音を吐かないタイプの患者は、自分から連絡をしてくることは少ない。妻や長女から電話で様子を知らされて状況が分かる。⑤カウンセラーは患者の身体面をもっと精密に検査をした方がよいのではないかと考えている。(パーキンソン病の診断があいまいであった。)

 

考察:両親が死去し、自らが頑張ってきた家業の跡継ぎがいなく、意欲をなくしている。また、日本の社会的状況の変化(家業を継ぐことが当たり前ではない時代)にも戸惑っているのではないかと、考えられた。

 また、身体面の診断をもっとしっかり行うべきではないか。パーキンソン病においてはリラックス時においても症状が出るので、しっかりとした診断が必要である。患者は人生の総括ができていない。自分がこれからどうやって生きていきたいのかを、考える時にきているのではないかと考えられた。

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